今周期は思ったより多く採卵できて、しかもだんなさんの精子の所見もいい感じ!こりゃあ何個か胚ができちゃうかな?・・・なのに結果を聞きにいったら「今回は凍結胚はゼロです」ってどういうこと・・・?!
じょいも何度も泣かされた受精と発生の障害についてのおはなしです。
- 体外受精の受精率は?
- 抗精子抗体があると受精しにくい?
- 抗精子抗体以外の受精障害の原因は?
- 顕微授精は受精障害の治療法になるの?
- スプリット法って何?
- 顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)って何?
- カルシウムオシレーションって何?
- 卵子活性化にはどんな方法があるの?
- 特殊な顕微授精って?
- じょいはやったの?
体外受精の受精率は?
卵の状態も、精子の状態もどちらも良くっても、全卵子の70%前後です。初めて聞いたとき「えっ!?全部受精しないの!?」と驚きましたがどうでしょう。「そんなものでしょ」という感じでしょうか。
さらに、胚盤胞まで到達できる確率は、全卵子の50%前後です。なんと半分ですよ!ここからさらに着床するかは「年齢と不妊治療の話」で書いたとおり、20代という若さでも40%です。30歳からだらだら下がりはじめて40歳では25%、4個良好胚があっても1個しか着床しなくなります。
とにかく採卵できた卵子の受精率と胚盤胞までの発生率をなんとかして上げていかないといけないわけですが、「なかなか胚ができない!」という受精障害・発生障害の方がいらっしゃいます。
抗精子抗体があると受精しにくい?
抗精子抗体は受精障害のひとつの原因です。抗精子抗体(ASA: anti-sperm antibody)は、精子を抗原、つまり敵と認識して攻撃し動きを止めてしまう働きのある物質です。なぜそんなあえて妊娠しにくくさせるものを女性が持つにいたったのか意味が分かりませんが、とりあえず全女性の10%程度が持っていて、採血でいつでも簡単に調べられます。自費で数千円が相場です。
抗精子抗体は、女性の体液のどこにでも出現します。膣分泌液、頸管粘液、さらには卵子の周りを取り囲む卵胞液にまで。つまり、抗精子抗体があると、体内に精子が入る自然妊娠や人工授精で妊娠は難しいということになるのです。抗精子抗体をどれくらい持っているかには、持っている人の中でも個人差がありますが、いわゆる「抗精子抗体強陽性といわれた」という方の場合、体外受精ですら、周りの卵胞液のなかの抗精子抗体にふりかけた精子が全滅させられますので、顕微授精が最も良いということになります。
抗精子抗体以外の受精障害の原因は?
検査で調べられるものは他にはありません。つまり、抗精子抗体がないなら、あとはもう原因不明です。ここからは、原因探しよりも受精障害・発生障害への治療をどんどん試してうまくいくものを見つけていくしかなくなります。
この受精障害や発生障害に限らず、不妊治療って、そういうところがありますよね。頭の良い人ほど、「うまくいかないのには何か原因があるはず。まずは原因を見つけ、それから対処法を考えよう」と思う性質があります。手あたり次第に試すのは、効率が悪いし、なんだか頭も悪そうです。
でもですねぇ、ところがどっこい不妊治療を始めたみなさんはお分かりの通り、原因って案外見つからないことの方が多くないですか?最初の一通りのスクリーニング検査ですぐ原因が分かって、それの治療をしたら妊娠できたなんて、よっぽどの子宮筋腫があった方くらいでしょう。ほとんどは「これだけでは妊娠しにくいというほどでもないくらい」の微妙な精子所見とか、微妙なAMHの低さとか、微妙な甲状腺異常とか、微妙に年齢が高め(まあこれが一番多いのですけど)とか、そういうなんとも言えないものの集合体です。なんにも原因がないってことだって、珍しくありません。とにかく、不妊治療の分野では「原因探しよりも手あたり次第試してみちゃおう!」という一見すると頭の悪そうなやり方が一番の近道だったりします。「なんでだろう?」はほどほどに、「よし次!」の不屈の精神で挑みましょう。どうせ答えは出ません。きっとどこかにあるはずの原因は、私たち不妊専門の医師や研究者が、あなたが無事妊娠しても引き続き人生を賭けて探し続けます。
顕微授精は受精障害の治療法になるの?
なります。抗精子抗体だけが受精障害の原因なら、顕微授精にすることで格段に受精率のアップが見込めます。そのほか原因不明の受精障害も、体外受精で受精率が30%とか大幅に低いなら、次は顕微授精というのが一般的です。
スプリット法って何?
採卵できた卵子に対して、半分を体外受精、残りは顕微授精にすることです。採卵個数が多めで、しかも初回の採卵であるときによく行われます。実は受精障害があったので体外受精で全滅という最悪の事態を防ぐことができます。もし体外受精でも顕微授精と変わらない受精率があったら、受精障害はないということですから、2回目以降は体外受精だけでよいでしょう。
では、顕微授精でも受精率が低かった場合はどうしたらいいのでしょうか。
顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)って何?
卵子を活性化し、発生率を高めます。体外受精・顕微授精のオプションとして使用している病院もあります。料金は数万円が相場です。これによる胚の異常や胎児の異常・奇形は報告されていません。
カルシウムオシレーションって何?
受精が起こるときには、カルシウムイオンというのが急上昇することで何かのスイッチが入るということが知られています。これがカルシウムオシレーションです。排卵のときのLHサージみたいなものですね。そのスイッチがうまく入らないことで、受精が起こりにくいのではないかという考え方に基づき、なんらかの方法で卵子の受精に対する活性を高めます。
卵子活性化には、どんな方法があるの?
カルシウムオシレーションを高めるにはいろいろな方法が考え出されています。
- カルシウムイオノファ添加
- ストロンチウム添加
- 電気刺激
- エタノール添加
どれを採用しているかは病院によりますが、このうちのどれか、もしくは複数を顕微授精のオプションとして使用している病院もあります。料金はひとつ数千円~数万円が相場です。これによる胚の異常や胎児の異常・奇形は報告されていません。どれが一番効くかは、報告がさまざまなのでよくわかっていません。あなたにはどれが一番良さそうか事前に分かる検査もないので、とりあえず、どれかを試していくという姿勢です。
特殊な顕微授精って?
卵子の核に精子の核を物理的に針で直接ねじ込んでやるのが顕微授精ですが、やっぱりちょっと乱暴な気がしますよね。レーザーを使用したり、特殊な針を使ったり、病院ごとにいろいろな工夫が独自に開発されています。ただ、どれもこれも新しすぎて「この病院のこの方法が最高!」というのが今のところ分かっていません。かかりつけの病院でも何か工夫がないか聞いてみるのも良いでしょう。
じょいはやったの?
顕微授精と、ほかに工夫もしました。「試すことが大事」と言っておきながらなんですが、結果が良くなるか分からないものに対して数万円のお金をかけていくこの感じにものすごい抵抗がありましたね。他のページを読んでいただいた方にはもうバレていると思いますが、じょいはケチなので・・・。それなのにイマイチ受精率が上がらなかったときなんて、結果の悪さで心、出ていく諭吉さんの人数で懐にダイレクトアタックです。
ネットを見ていると、「○○法で今回は凍結できた!」とか「○○法を試したらなんと全部受精!」とか嬉しい報告がありますが、どんなものもそうですけど、効く人・効かない人がいます。統計というもののマジックですが、「20%の人に効く」治療Aと「80%の人に効く」治療Bがあったとして、治療Bの方が4倍良い治療ということに一般的にはなりますが、「あなた個人に効く」のはどっちかは試してみないとわかりません。なので、いろいろな方法が日々考案されています。
もうほんと、ゴールの見えない不妊治療を乗り切るのは気力と金ですよ・・・世知辛い世の中です。取り戻せるお金については「不妊治療とお金」をご覧ください。