タイミング法でも、人工授精でも、そして体外受精や顕微授精でも、排卵させるために薬を使うことがあります。不妊治療と切っても切れない縁である排卵誘発剤いろいろについて解説!

 

そもそも排卵の仕組みって?

脳下垂体というところから分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)が卵巣に働いて、卵胞を育てます。「基礎体温表が分からない!」でご説明した、低温期で起こることですね。

月経がくると、卵巣の中で、「今周期に排卵するかもしれない卵胞の候補たち」が複数個現れます。これをAFとか胞状卵胞(ほうじょうらんぽう)といいます。年齢によって、胞状卵胞が何個現われてくるかは異なり、若い人ほど多く高齢の方ほど少ない傾向があります。20代前半では片側10-20個ずつ見えることもざらですし、40歳を超えてくると片側1-2個しか見えなくなってくることもあります。しかし、胞状卵胞がたくさんあるからと言って、自然の状態ではそれがすべて排卵するわけではありません。胞状卵胞たちにFSHが作用すると、卵胞として育ち始めますが、自然の状態では、卵胞がうまいこと1個か2個しか発育しないようにFSHが出すぎないように調整されています。その育っていく卵胞を主席卵胞(しゅせきらんぽう)といいます。主席卵胞が育ち始めると、今度は脳下垂体からLHというホルモンが分泌されるようになり、主席卵胞の中の卵子を成熟させていきます。卵胞がだいたい20mm程度の大きさに育ったころ、卵子が十分に成熟し、LHが爆発的に増えるLHサージが起こって、排卵するという仕組みです。

しかし、このままでは排卵は常に毎週期1-2個しか起こりません。採卵周期では、卵はいくつ取れてもよいし、むしろ多く取れればそれだけ効率が良いですよね。そのため、人工的にFSHを注射してやることで、「主席卵胞が1個か2個しか育たない」リミッターを外してやって、なるべく胞状卵胞すべてが主席卵胞となって発育するようにしてやります。これを、排卵誘発とか排卵刺激と呼びます。

飲み薬・クロミッドとセキソビットって?

クロミッドはクエン酸クロミフェンの商品名、セキソビットはシクロフェニルの商品名です。どちらも、脳のエストロゲンを感知する部分を阻害することで、脳に「エストロゲンが足りていない!」と勘違いを起こさせ、脳下垂体からのFSHの分泌を増やさせます。その結果、卵巣が自然よりも刺激を受けて、主席卵胞が育ちやすくなります。

飲み薬でお手軽なのはいいことですが、2-3周期続けると、脳も騙されなくなってくるので効き目が落ちることがあります。また、クロミッドには、子宮内膜にも「エストロゲンが足りていない!」と勘違いを起こさせてしまうので、長く続けると子宮内膜が厚くなりにくくなってくるという困った副作用があります。セキソビットにはこの副作用はほぼありませんが、肝心の排卵誘発の効果はクロミッドより弱い傾向があります。保険が効くので1周期数百円で済むのがうれしいですね。

飲み薬・フェマーラとアリミデックスって?

レトロゾールの商品名です。アロマターゼ阻害薬という種類の薬で、もともとは乳がんの治療薬として開発されました。「えっ!抗がん剤?!とんでもない!」と早とちりは禁物ですよ!

その前にちょっとしたお話を。実は、女性ホルモンのメインであるエストロゲンは、男性からも検出されるって知っていましたか?エストロゲンは卵巣から分泌されるはずなのに、不思議ですよね。そのカラクリは、男性ホルモンのメインであるアンドロゲンの一部が、エストロゲンに変化できるから。その変化を助けているのが、アロマターゼという酵素なのです。ちなみに、アンドロゲンは、精巣からだけでなく副腎という臓器からも分泌されているので、とっくの昔に閉経したはずのおばあちゃんからも少量のエストロゲンが検出されるのも、このアロマターゼの仕業です。

乳がんは、ご存知かもしれませんが、エストロゲンと深い関係があります。せっかく手術しても、エストロゲンが高いと再発しやすいことが分かっています。閉経後でも、アンドロゲンから変化する少量のエストロゲンを抑えるため、アロマターゼ阻害薬が作られました。

そして、この「卵巣以外から分泌されるエストロゲンを減らす」作用によって、脳は「体のなかのエストロゲンが下がった!」と思い、FSHの分泌を増やします。ん?FSHが増える、これってつまり、排卵誘発剤として使えますよね!しかも子宮内膜にも影響しない!この作用が注目され、近年はアロマターゼ阻害薬が排卵誘発剤としてよく使われるようになりました。しかし、保険適応としてはあくまで乳がんですので、「適応外用法」となり、自費になりますから1周期5000円前後かかることが多いです。

HMG製剤って?

FSHとLHが、だいたいFSH多めの1:1/3~1くらいの比で含まれている製剤です。最も強い排卵誘発効果があります

商品名としては、「HMG」とつくものがほとんどです。

 

FSH製剤って?

ほとんどFSHのみを含む製剤です。LHがもともと高めの方(PCOSの方)などにはこちらのほうが卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが少なく使えるといわれています。

商品名としては、フォリスチム、ゴナールF、ゴナピュール、フォリルモンなどがあります。

LH製剤って?

LHだけを含む製剤です。HCG製剤と言った方が分かりやすいでしょうか。いよいよ成熟の仕上げをして排卵させるというときのLHサージを作るときに使います。

排卵誘発剤ってどれが強いの?

量によるので単純には比べにくいですが、飲み薬<FSH製剤<HMG製剤でしょうか。ひとつしか使えないわけではなく、飲み薬と注射薬を組み合わせたり、FSH製剤とHMG製剤を組み合わせたりもします。

強ければ強いほどたくさん卵がとれるの?

そうではありません。「そもそも排卵のしくみって?」で説明したように、胞状卵胞のうち一部が主席卵胞として発育し、排卵します。つまりは、胞状卵胞の数より多く排卵することは、いくら強い薬をたくさん使ってもありえないのです。採卵するときに、一番いい排卵誘発の方法は、あなたの持つ胞状卵胞すべてが発育しきるような方法です。胞状卵胞の数や、AMH、年齢、ホルモンの値などから最適と思われる排卵誘発の方法を決めます。病院ごとにその基準は異なるかもしれません。それ以上に強い排卵誘発をしても、過剰なホルモンは無駄になってしまいます。お金も、資源も無駄ですし、あなたの卵巣に余計な負担をかけるだけでいいことはありません。

しかし、実際には「たくさん採卵してほしいから、もっと強い誘発を!」とか「いつも弱い誘発ばかりだから卵が取れないんじゃないの?!」とかお叱りを受けることがあります。厳しいお話になりますが、それ以上強い誘発をしても数が多くなることは見込めないので、その方法をとっているのだと思ってください。排卵誘発剤は、決して卵を増やす魔法の薬ではありません。あくまであなたが持つ卵巣機能を最大限に発揮させるお手伝いをする薬です。

強い排卵誘発剤を使うほど、卵の質って落ちるの?

そうではありません。排卵誘発剤の種類、量は、卵の質を変えないというのが、一般的に言われていることです。排卵誘発剤は、あくまであなたが持つ卵巣機能を最大限に発揮させるお手伝いをする薬です。つまり、卵の質は誰にも変えられません。

排卵誘発剤、薬の時間を間違えちゃった!

気付いた時点で使ってください。必ず24時間ずつあけないといけないというような、シビアなものではありませんので、次の時間はわざと遅れた分だけずらしたりせずいつも通りで大丈夫です。ずらしても効果は一緒です。

注射、どうしたら痛くない?!

皮下注射の場合、自分でやるなら下っ腹を力いっぱいつまんで刺すのが一番痛くないです。人にやってもらうならお尻が一番鈍感なので痛くないですね。

あとは、皮膚を冷やしてから刺すこと。アイスノンなどで皮膚をキンキンに冷やしてからならちくっとする痛みはかなり軽減されます。冷やしすぎてしもやけにならないように。もちろん、効果はかわりません。逆に薬は人肌がベスト。薬が冷たすぎても暖かすぎても痛みを感じます。冷蔵の薬も、使う直前に人肌に温めてから使えば多少ましです。

あとは注射器をできるだけゆっくりゆっくり押すこと。一気に薬剤が入るとそれだけでじわーっとした痛みを感じます。