人工授精までの不妊治療と比べて、段違いにお金(なんと10倍以上)・時間ともかかってくる体外受精・顕微授精。今の仕事は続けられるのか、体外受精ってスケジュール調整はどこまで可能なのか心配という方も多いでしょう。私は、立場上どういうスケジュールかある程度理解できていたのでよいですが、何も知らないととっても不安だろうなと思います。

採卵周期、どんな誘発方法があるの?

排卵誘発の強さ、つまりどれくらい卵巣を刺激するかによっていろいろな方法があります。「排卵誘発の基礎」に詳しめに書いてみたので、「そもそも排卵誘発って何?」という方は読んでみてくださいね。

  • 無刺激(完全自然周期)
  • 低刺激(HMG法、FSH法、クロミッド法や、それらの組み合わせ)
  • 中刺激(ショート法、アンタゴニスト法)
  • 高刺激(ロング法)

強い刺激の順にとれる卵子の個数も増える傾向にあります。それなら強い刺激だけでいいはずですよね?実は、その人(というかその人の卵巣)に合った刺激の強さが存在し、強ければ強いほど誰でも卵子がたくさん取れるようになるというわけではないのです。「排卵誘発剤、薬いろいろ」のこちらで説明したとおり、胞状卵胞の数より多く排卵することは、いくら強い薬をたくさん使ってもありえないのです。つまり、胞状卵胞が多い人は候補が多い分だけ強い排卵誘発剤が必要になりますが、胞状卵胞が少ない人は候補が少ないので排卵誘発剤も弱くて十分であるということになります。必要な強さ以上に強すぎる誘発をしてしまうと、強さのわりにとれる卵子の数は少なかったり、卵巣へ余計なストレスがかかり、良いことはありません。何度も言いますが、排卵誘発剤は、あくまであなたが持つ卵巣機能を最大限に発揮させるお手伝いをする薬であって、存在しない卵子をゼロから生み出す魔法の薬ではありません

 

採卵周期、どの誘発方法でやるかはどうやって決まるの?

年齢、AMH、月経中のFSH・LH、などなどで決めます。卵巣機能が高いほど、強い刺激に耐えられますから、年齢が若いほど高刺激が選ばれやすいのは確かです。逆に40歳前後からは、弱刺激や無刺激が増えていきます。病院の方針によっては、卵巣へ強いストレスがかかることを避けて、あえて高刺激はしなかったりするところもあります。いくら自費診療とはいっても、最大限の効果を発揮するために我々が専門知識を持って挑んでいますから、「友達がロング法ってやつで妊娠してたからロング法がいい!」など本人の希望だけで刺激方法を決めることはほぼありえません。

採卵周期、採卵日まで何回通えばいいの?

最低4回+採卵日なので、1周期あたり最低5回で卵子が採卵済みという状態になります。

  • 誘発方法の決定日(月経1-5日目以内)
  • 卵胞の発育確認①(前回から5-7日後くらい)
  • 卵胞の発育確認②(前回から3-7日後くらい)
  • 採卵日の決定(前回から1-3日後)
無刺激(完全自然周期)のスケジュールは?

月経中に①回目の受診をし、「今回は無刺激でいこう」と決めます。

そのあとはだいたい月経8-10日目頃に②回目の受診をすることになり、何個個の卵胞が育ち始めたかを確認します。

卵胞は12-14mmを超えると1日1.5mmくらいずつ育ち始め、自然であれば18-20mm前後で排卵します。しかし、体外受精の採卵周期の場合、こうなってはいけません。だって排卵してしまった後では、当然ですが採卵できませんから。採卵のタイミングとしては「成熟はしたけど排卵直前」という状態がベストです。そこで、自然のLHサージが起こる直前を見極め、人工的にLHサージを作ってやり(トリガーと呼びます)、その34時間後くらいに採卵します。そうすれば採卵直前の、成熟した卵子がとれるというわけです。LHサージが有効なのは、卵胞がだいたい16mmを越えてからですから、16-18mmになる時期、だいたい普段の排卵日の3-5日前に③回目の受診となります。この日を採卵決定日とか呼びます。

トリガーとなるLHサージを行ったら、その34時間後に採卵。だいたい採卵決定日の2-3日後が採卵日となります。普段の排卵日の1日前くらいになることが多いでしょうか。

低刺激のスケジュールは?

月経中に①回目の受診をし、「今回は低刺激で行こう」と決めます。月経3-5日目から排卵誘発剤を指示通り使い始めます。これは病院によって工夫のあるところで、普通の薬のように用法用量がないので人によって、また病院によっていろいろな方法があります。「こんな使い方って合っていますか?」という質問は、転院してきた患者さんでよく聞かれますが、「普通」がない以上、全部正しいということになります。

そのあとはだいたい月経8-10日目頃に②回目の受診をすることになり、何個個の卵胞が育ち始めたかを確認します。

主席卵胞が16-18mmになれば、LHサージを人工的に起こせば成熟した卵子を採卵できるようになります。そうなるまで、2-4日おきくらいに受診を繰り返し排卵誘発剤を使い続けます。

トリガーとなるLHサージを行ったら、その34時間後に採卵。だいたい採卵決定日の2-3日後が採卵日となります。普段の排卵日の前日~同じくらいの日になることが多いです。

中刺激(ショート法)のスケジュールは?

月経中に①回目の受診をし、「今回はショート法で行こう」と決めます。その日からGnRHアゴニストの点鼻薬(ナファレリール、ナサニール、ブセレキュア、スプレキュアなど)を毎日点鼻し始めます。これでLHサージが自然には起こりにくくなります。月経3-5日目から排卵誘発剤を指示通り使い始めます。だいたい連日HMG製剤の注射をすることになります。

そのあとはだいたい月経8-10日目頃に②回目の受診をすることになり、何個個の卵胞が育ち始めたかを確認します。

主席卵胞が16-18mmになれば、LHサージを人工的に起こせば成熟した卵子を採卵できるようになります。そうなるまで、2-4日おきくらいに受診を繰り返しGnRHアゴニストの点鼻薬と、HMG製剤の排卵誘発剤を使い続けます。量は同じだったり、卵胞の発育に合わせて増やしたり減らしたりすることもあります。

トリガーとなるLHサージを行ったら、その34時間後に採卵。だいたい採卵決定日の2-3日後が採卵日となります。採卵日は卵胞がしっかり育つのを待つため、普段の排卵日よりすこし遅れることもあります。

中刺激(アンタゴニスト法)のスケジュールは?

月経中に①回目の受診をし、「今回はアンタゴニスト法で行こう」と決めます。月経3-5日目から排卵誘発剤を指示通り使い始めます。だいたい連日HMG製剤の注射をすることになります。

そのあとはだいたい月経8-10日目頃に②回目の受診をすることになり、何個個の卵胞が育ち始めたかを確認します。

主席卵胞が13-14mmを超えると、LHサージを抑制するためのGnRHアンタゴニストを併用し始めます。GnRHアンタゴニストは飲み薬のレルミナ、注射薬のガニレスト、セトロタイドなどがあります。これも量や日数は病院によって工夫のあるところですので決まりはありませんが、だいたい1-3日くらい続けて使うことが多いですね。

主席卵胞が16-18mmになれば、LHサージを人工的に起こせば成熟した卵子を採卵できるようになります。そうなるまで、2-4日おきくらいに受診を繰り返しHMG製剤を注射し続けます。とくにアンタゴニスト法では、GnRHアンタゴニストのせいでHMG製剤の効果まで減弱してしまうことがあるので、GnRHアンタゴニストを使い始めてからはHMG製剤の量が少し増えたりすることがショート法より多いです。

トリガーとなるLHサージを行ったら、その34時間後に採卵。だいたい採卵決定日の2-3日後が採卵日となります。採卵日は卵胞がしっかり育つのを待つため、普段の排卵日より数日遅れることもあります。

高刺激(ロング法)のスケジュールは?

前の周期に①回目の受診をし、「今回はロング法で行こう」と決めます。ロング法ではLHサージを完璧に抑え込むため、GnRHアゴニストの点鼻薬を月経予定日1週間前から使いはじめます。そのため、ロング法の直前の周期は避妊を指示されることもあります。しかし、もし妊娠してしまったとしても、月経予定日を1週間過ぎて妊娠が判明した時点でGnRHアゴニストを中止すれば、胎児に奇形がでたり異常が起きたりすることなく妊娠がきちんと継続できることも知られています。しかし、妊娠初期のプロゲステロン(黄体ホルモン)がGnRHアゴニストの効果で抑えられてしまう場合があるため、黄体補充が必要になることもあります。1周期でも無駄にしたくない気持ちはとっても良くわかりますが、いろいろ考えると避妊が無難かもしれませんね。ロング法を選ばれた時点で、あなたの卵巣機能は良好ですので、せっかく手間とお金と時間をかける体外受精ですから、万全の心と体で臨んでください。

月経3-5日目から排卵誘発剤を指示通り使い始めます。だいたい連日HMG製剤の注射をすることになります。

そのあとはだいたい月経8-10日目頃に②回目の受診をすることになり、何個個の卵胞が育ち始めたかを確認します。

主席卵胞が16-18mmになれば、LHサージを人工的に起こせば成熟した卵子を採卵できるようになります。けれど、ロング法の場合は、長い期間使った点鼻薬がガッチリ自然のLHを抑え込むので、主席卵胞がかなり育っても自然のLHサージはまず起きないですから、たくさんある卵胞を根こそぎ発育させきるまで、2-4日おきくらいに受診を繰り返しHMG製剤を使い続けることが多いです。だいたい主席卵胞が18-20mmを越えてから、LHサージを起こして採卵日を決定することになります。

トリガーとなるLHサージを行ったら、その34時間後に採卵。だいたい採卵決定日の2-3日後が採卵日となります。採卵日は卵胞がしっかり育つのを待つため、普段の排卵日より数日~1週間遅れます。

スケジュールが狂うときってあるの?

むしろ狂うのが普通です!月経周期が順調な方の無刺激周期なら予想できますが、低刺激~高刺激周期の採卵日なんてもう全然思惑通りにならない!じょいの場合、自分がそもそも不妊治療を治療する側の産婦人科医ですから、ある程度の予測はつきます。しかし、それも誤差なしとは全然いきません。だいたいこのあたりで次の受診だなと思ってスケジュールをピンポイントで明けていても、その前日や次の日を指定されてニアミスということがよくありました。とくに採卵日は、通っていたクリニック(勤務先は気を使うので自宅近くのクリニックに通っておりました)が必ず麻酔をかけるところだったので、朝から昼まで絶対半日かかります。そのほかの受診日なら、少し早退させてもらってなんとかスケジュール調整していたのですが、採卵日はそうはいきません。本当なら、代わりの先生を立てておくためにも、1か月前にはピンポイントで決めておきたい・・・!でも全然無理・・・!絶対無理・・・!結局1週間弱くらい前にやっと「たぶんこの日に採卵日だろう」という日が分かり、周囲の協力を得て半日有給をいただきました。採卵周期が始まったときに、「たぶんこの日が採卵日!」と予測した日は見事に3日も外れましたね。当時のじょいと似たような年齢・同じ誘発方法をした過去の患者さんのデータの統計を取り、さらにそのクリニックで不妊治療中の方と思しきブログを鬼のように検索し、当時持てる力をすべて注ぎ込んで予測したのに外れますから、これは採卵日の予測は1週間前くらいじゃないと無理だと諦めましょう。同じ誘発方法を同じ病院でやる場合、2回目以降はだいたい似たようなスケジュールになりますのでもう少し見通しが立ちましたが。

やはりこういうことも考えると、通いやすい病院であることが不妊治療には必須なのだと思います。待ち時間が少ないこととか、夜診をやっていて仕事帰りに行けるとか、土日の診療があるとか。そして、働く職場がブラックでないこと。ちょっとの早退、遅い出勤は簡単に考慮してくれて、半日有給をもらうのも数日前でもなんとかなる。かかる時間が長くて絶対に動かせないのは、採卵日・移植日くらいですから、だいたい1-2か月に1回くらいしかありません(凍結融解胚移植の場合)。その日さえなんとかできれば、フルタイムで体外受精に挑むのも、どうにかこなしていけると思います。

しかし現実的には非常勤やパートに変わったという患者さんがいっぱいいます。たとえば、患者さん自身が簡単に使えるエコーとか、指先に針を刺して一滴の血液でその場でホルモンの数値がわかる採血キットとか、そういうものがあって、さらに不妊クリニックの主治医が遠隔診療で治療方針を決めてくれて、薬はアマ○ンプライムが翌朝届けてくれるとか、そういうことができたらいいのになと思います。機械的にやろうと思えばどこまでも機械的にできるのが不妊治療ですので、他の病気よりも、医学的にはそういうことがやりやすいはずなんですよね。まぁ、人工授精の日とか、採卵日や移植日はどうしても来てもらわないといけないですが。けれど、今はそうできないですし、もしできたとしても患者さんはそれを望まないかもしれないなというのが自分が不妊治療をして初めて思ったことでした。毎日とても不安で誰にも相談できない不妊治療。匿名のブログにどれだけ愚痴っても、匿名のフォロワーにどれだけ優しくしてもらっても、一番感情が揺さぶられる相手は直接お話しする看護師さんや主治医ではないでしょうか。現に私も、彼らのちょっとした一言ですごくホッとしたり、逆にすごく不安になったり。だから私も、せっかく貴重な時間とお金を使って私を選んできてくれた患者さんたち、少しでも心穏やかに治療をしてもらえるように毎日心がけています。もちろん結果が第一ですが、やっぱりホルモンは精神状態も大事ですものね。