良好胚と呼ばれる胚がとれても、胚移植で着床してくれなければ妊娠はできません。ポリープもないし筋腫もないのにどうしてなかなか着床もしないのか・・・。「流産ならいいじゃない、着床はしたんだから」なんて、いいわけないのに僻んでしまって自分が嫌になったりして・・・。

着床不全ってどういうこと?

良好な胚を4回移植しても一度も着床しなかったことを言います。「胎嚢は見えたけど成長が止まっちゃった」のは流産ですから着床はクリアしています。「HCGは陽性になったけど胎嚢が見えないままだった」のは化学流産といいますが、これは微妙なところ。一応、着床まではクリアしたと見るのが一般的です。つまり、着床不全とは、良好な胚を4回移植してもHCGが陽性にならなかったことを言うのですね。

着床不全の原因①:ポリープや筋腫がある

胚が内膜に着床するのを、ポリープや筋腫が物理的に邪魔して妨害している場合です。普通、エコーで疑わしい場合は、移植前に子宮鏡で子宮内膜の様子を確認して、邪魔になりそうなポリープや筋腫がないことを確認してから行うのが普通です。

「明らかにでっぱってるってわけじゃないけど、なんとなく内膜を押し上げているような・・・」という感じの微妙な筋腫の場合、手術をすべきか悩むところです。実は、微妙な子宮筋腫が本当に着床不全を起こすかは、決着がついていません。子宮鏡の手術ですめば、入院期間も短いし、次の生理がくればまた移植周期に入れますし、妊娠したときも普通の経腟分娩で産むことができます。でも、もし腹腔鏡や開腹での手術になった場合、入院期間は長引きますし、傷が治るまで移植を3-6か月は待たないといけません。さらに妊娠したときも大概は帝王切開を勧められます。

なので、そういう場合は統一した見解があるわけではありません。たとえば、年齢がまだ若くて、良好胚もたくさん取れていてこれが初めての移植なら、とりあえず1-2個はこのまま移植してみようかなと思うこともあります。でも、良好胚をとるまでになかなか苦労したような場合、なけなしの大事な大事な良好胚は万全の子宮に移植してやりたいですから、「本当に影響があるか微妙・・・」と思っても完璧に条件を整えてやるために手術を行ってから移植をするという考え方もありです。また、もうすでに2-3回移植不成功に終わっている場合、ほかに原因がなさそうならやっぱり手術をしようかということになります。

着床不全の原因②:内膜が薄い

移植時の内膜は厚いほど着床しやすいことが分かっています。10mm以上あれば文句なしにベストです。7.5mm以上あれば、移植したときの着床率に影響はないと言われています。それより薄くなると、ちょっとずつ着床率が下がっていってしまいます。なので、とりあえず、子宮内膜が7.5mm以上あるならあなたの着床不全の原因は子宮内膜の厚さではないのかもしれません。

ホルモン補充周期での移植なら、エストロゲンの量を増やしてみることで子宮内膜を厚くすることができます。HMG製剤を使って低刺激程度の卵巣刺激を加えてやることで、子宮内膜を厚くしてやることもできます。

着床不全の原因③:慢性子宮内膜炎がある

子宮内膜に慢性の炎症が起きて胚の着床を妨害している場合があります。最近はやりの概念ですねえ、慢性子宮内膜炎。

子宮鏡で子宮内膜を見ると、本当に極小のポリープがあったり、なんとなく表面が赤くただれていたりすることがあります。これが、慢性子宮内膜炎の所見だというのですが、なかなか診断は難しい!!教科書みたいに典型的なものを見つけることってほとんどないです。慢性子宮内膜炎について非常にお詳しい先生だと、やはり小さな所見も見逃さないで子宮鏡で見ただけで診断ができるのだとおっしゃいます。産婦人科医なら全員診断できるわけではないです。つまり、慢性子宮内膜炎を子宮鏡だけで診断しようとするのは、人によって結構診断がばらつくから信頼度が低いと私は思っています。

やはり、炎症があるということは、細菌がいるということ。それを調べるのがALICE検査(Analysis of infectious chronic endometritis)とEMMA検査(endometrial microbiome metagenomic analysis)の検査です。この2つはセットで行います。子宮の中は正常でも無菌というわけではありません。ラクトバチルス属という乳酸菌がいて、子宮内膜の健康を保ち着床に適した環境に整えていてくれます。その乳酸菌が90%以上いると着床率が6割を超え、逆にそのほかの雑菌がはびこってしまって乳酸菌が90%未満しかいないと着床率は2-3割程度に落ち込むといわれています。子宮内膜の組織を一部とってこないといけないし、普通の細菌の検査ではなく、細菌の遺伝子を検索する非常に専門的な検査ですから、一般の産婦人科ですぐにできる検査ではありません。いわゆる「細菌培養」という検査とは違いますよ。不妊クリニックできちんと受けないと正しい結果はでませんのでご注意くださいね。

ALICEとEMMAは、このように子宮内膜の中の、詳しい細菌の状態も分かるし、何より検査する医師の技量によって差が出ないので、とっても優れた検査です。問題はその費用・・・!セットでなんと10-20万円が相場です。

結局ALICEとEMMAで慢性子宮内膜炎だと分かった場合、ビブラマイシンという抗生剤を飲むことになるのですが、こちらは自費でも数千円。そう、治療より検査のほうがずっとずっと高額なんです。「それなら高い検査をしなくたって、とりあえず着床不全の人には治療をしちゃったらいいじゃないか!」と思いませんか?うーん、実は産婦人科医の中にもそう思っている人はいます。そういう場合、慢性子宮内膜炎かはわからないけどとりあえず治療をしてしまうという方法がとられることがあります。

着床不全の原因④:「着床の窓」が合っていない

胚盤胞を移植するとき、排卵から5-6日目の子宮内膜に移植します。そうしないと胚盤胞の年齢と子宮内膜の年齢がそろわないため、どんなに良好胚を移植してやっても着床しません。その、移植に最適な期間を「着床の窓」と言いますが、これが普通より早めに起こったり、逆に遅めに起こったりする方がいます。「着床の窓」が早めに開いてしまう方は、わざと排卵から4.5日目くらいに移植してやらないと着床しなかったり、逆に遅めにしか開かない方は、排卵から6.5日目くらいに移植してやらないと着床しなかったりします。

「着床の窓」がいつ開くかを調べる検査が、ERA(Endometrial receptivity analysis)です。ホルモン補充周期で調べます。エストロゲンを補充し、内膜が十分に厚くなったら、プロゲステロンを併用します。このとき、「着床の窓」を確定させるために、プロゲステロンの開始時間がきっちり指定されます。開始した時間=排卵の瞬間となりますから、ここをきっちり守らないとERA検査自体の精度が狂ってしまいますので大事なポイントです。「明日の23時」とか言われたら、前後30分くらいのズレできっかりやってくださいね。さて、いつもの移植の時期になったら、内膜組織を採取して検査します。遺伝子検査を行い、その内膜が着床に適した時期か、それともまだか、もう過ぎたかを調べます。適した時期だったら、次の移植周期のときは同じタイミングで移植してやればいいし、まだだったら半日くらい遅くしたタイミングで移植してやればいいし、もう過ぎていたら半日くらい早めたタイミングで移植してやればいいということになりますね。

問題は、やっぱり費用です。10-15万円が相場です。高い!!遺伝子ってやつを検査するのは例外なくものすっごく高くなるんですよ、なんでも!すごく手間がかかるので仕方ないんですけどね・・・、でも高い!!「だったら、適当に半日くらいずつずらしやればよくない?」と思いましたか?でもね、胚の数が無限じゃないので、「いつものタイミングで4個」→「ERA検査せずとりあえず前にずらして4個」とやっていて、もし遅めタイミングの人だった場合、その4個は完全に無駄玉になってしまうわけです。ふつう、胚1個に数万~数十万円かかってますから、こっちのほうがもったいない。ALICE+EMMAと違って、ERA検査はやらずに適当に治療するというのはコストパフォーマンスの意味でも難しいかなと思っています。

着床不全の原因⑤:自己免疫が強すぎる

ごく最近ですが、免疫力が強すぎて、胚すら異物として排除されてしまうという状態が着床不全を生み出しているという考え方が出てきました。免疫を司るヘルパーT細胞には1と2という種類があります。普通、妊娠するときにはヘルパーT細胞2(Th2)が優勢だということが知られていますが、着床不全の方では、ヘルパーT細胞1(Th1)のほうが優勢になっている場合があるそうです。これは採血ですぐわかり、検査費用は2-4万円が相場です。治療法としては、免疫抑制剤のタクロリムスという薬の内服をしながら移植をする方法があります。タクロリムスは、臓器移植を行うときに自分の免疫細胞がせっかく移植した他人の臓器を攻撃してしまわないようにするための薬として保険適応があります。もちろん、そのせいで免疫が落ちてしまうという副作用があるのですが、着床不全のときにはごく少量しか使いませんから、そういう副作用が出ることはありません。また、タクロリムス使用による胎児の奇形や、異常は、今のところ何も報告されていません。ただ、着床不全には保険適応のないお薬なので、1日分で1000円前後かかるのが相場です。タクロリムス代としては1周期あたりで数万円ですね。

着床不全の原因⑥:ビタミンD不足

ビタミンDは着床率を改善することが分かっています。どれくらい摂取したらいいのかなど目安については、「不妊症にはもはや必須!ビタミンDの新常識?!」にまとめました。手軽にすぐ始められるし、不妊の分野では珍しく明らかに効果があるので、これは着床不全でなくとも全員におすすめしたいくらい。レスベラトロールとかDHEAとかと違ってお安いのもすすめやすいところ。ひと月あたり数百円で可能です!

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着床不全への工夫①:内膜スクラッチ

残念ながら2019年の大きな研究で、「着床率の上昇に効果なし」とされてしまいました。子宮内膜にわざと細かい傷をつけることで、なんらかの物質が出たて胚が引っかかりやすくなり着床が促されるのではないかという理論です。移植周期の月経中や前の周期に子宮鏡でわざと子宮内膜に触れたり、細いブラシを使って細かい擦り傷をつけたりします。このように、時期や方法も病院によってバラバラで、統一したやり方が存在しません。そもそもそんな物理的な傷がどうこうなるとは考えにくく、最初から疑惑の目で見られていた方法でしたので、研究が出たときは「やっぱりねー効果なかったかー」という声のほうが大きかったです。まあでも、悪い影響もなかったし、やり方も簡単でデメリットがないので、しばらく続ける病院はあるでしょうね。費用も、1回あたり数千円までが相場です。

着床不全への工夫②:アシステッドハッチング

胚は透明帯という殻に守られています。胚盤胞の後期になると、胚のなかの細胞がどんどん分裂してボリュームが増すので、殻が破れて子宮内膜にくっつくようになります。これを孵化(ハッチング)といいます。着床しにくい胚のなかには、この透明帯の殻が硬すぎるかなにかで孵化できないものがあるのではないか、という考えに基づき、移植前に人工的に透明帯の一部を除去しておいてやる方法が、アシステッドハッチングです。こうすることで、着床する胚本体が子宮内膜に触れるので、着床率が上がります。

気になるのは「どれくらい上がるのか?」ということですが、これがもう病院の報告によって様々で、「全然変わらなかったのでもううちではやっていない」というところから「1.5倍くらいに上昇したので着床不全かどうかに関わらず全例やることにしている」ところまでさまざまです。さらにやり方も、「物理的にメスで透明帯を十字に切開」だったり「レーザーで透明帯に穴をあける」だったり「透明帯を全部とっぱらう」だったり千差万別。とりあえず、「着床率が下がった」という報告や「そのせいで奇形が増えた」という報告はないので、やっても問題ないし全員に効果があるかどうかはわからないが効果がある人はいるだろうと考えられています。広く一般的にやられている方法なことは間違いないですね。費用的には胚1つあたり1-3万円が相場です。

着床不全への工夫③:ヒアルロン酸添加

粘り気の強く無害なヒアルロン酸を胚と一緒に移植の時に加えることで、その粘り気で子宮内膜に胚が着床しやすくなるのではないか、という理論から考え出された方法です。商品名としてはエンブリオグルーやUTMなどがありますね。費用は移植1回につき1-2万円。これは商品がある分、やり方はだいたい一緒なのですが、それでも不思議と「効果が全然ないからやめてしまった」という病院や「やっぱり着床率が上がるからやっている」という病院までさまざまです。しかし、どうも効果ありの意見が多いですね。後でいいますが、結局着床しても育つかどうかは染色体異常があるかどうかで決まりますから、ヒアルロン酸で着床率を上げたところでそのあとの流産率が増えてしまって結局お産までいける確率は変わらなかった、という報告もあります。しかし、中には何らかの原因で「胚の染色体も正常だけど着床しないだけ」という方もおり、それにはどうやら有効なようです。難しいところですね。ちなみに、初期胚には適応がありません。胚盤胞限定です。

着床不全への工夫④:2段階移植

初期胚と胚盤胞を、同じ移植周期で移植する方法です。初期胚・胚盤胞それぞれの着床率の合算よりも、なぜか着床率がいいといわれていました。それは、初期胚が持つ何かの成分により子宮内膜が活性化されて、あとの胚盤胞の着床に良い働きをするからだという理論に基づいています。しかし最近は、同じ周期で2個胚が移植されるから着床率が見かけ上上がるだけで、別に付加効果はないという意見が有力です。また、双子の確率がわずかに上昇します。けれど高齢だったりしてとにかく何度もチャレンジするしかないという場合には、有力な方法かもしれません。

着床不全への工夫⑤:SEET法

2段階移植のところでお話しした、「初期胚が持つ子宮内膜を活性化する何らかの成分」が、初期胚の培養液に含まれているから、その使用済みの培養液だけを胚盤胞の移植の2日前に子宮内に投与してやることで着床率が上がるとする理論に基づいた方法です。さらには、何も培養していない単なる使用前の培養液だけを同じように投与しても着床率が上がるとする、簡易SEET法なんていうのも出ました。「培養液だけで・・・?そんなバカな・・・」と、一抹のうさん臭さを感じておりましたが、最近はやはり、簡易SEET法は効果なしとする報告のほうが多いように思います。さらには、「何らかの良い成分」が含まれているはずの使用済み培養液を使用した、オリジナルのSEET法すら効果なしとする報告が増えています。結局、移植する胚盤胞本体の質が大事であるということに落ち着きそうです。移植1回あたりだいたい1-3万円が相場です。

着床不全への工夫⑥:2胚移植

胚を2個移植すればそりゃあ着床率も上がるでしょうという単純な理論に基づいたやり方です。そりゃそうだ。着床率は2個の胚それぞれの合算になりますから、当然上がります。ただし、双子の確率もわずかに上昇します。

昔は、「グレードが良い胚+グレードが悪い胚」を移植してやる抱き合わせ商法が多かったのですが、これは最近は時代遅れのようです。「グレードが悪い胚」は、見た目ではすべてが分からないにせよ、染色体異常の確率もやはり高いです。そういう胚は結局、着床しても流産になってしまうか、そもそも着床しませんね。そのときに「グレードが悪い胚」からは、着床を妨げるようななんらかかの物質がでているので、その物質がせっかくの「グレードが良い胚」にも作用して、逆に着床率を落とすのだと言われ始めました。なので、「グレードが良い胚同士」か「グレードが悪い胚同士」の似た者同士で移植してやることで、弊害を抑えることができます。グレードが良い胚ならわざわざ2胚移植することはないですから、2胚移植の主流は、1胚移植ではあまり着床が望めない「グレードが悪い胚同士」となります。費用は、移植1回あたり1個分の融解料金が加算されるので数万円でしょうか。

着床不全への工夫⑦:PGT-A(着床前染色体異数検査)

これにつきます。今までの話は、「もし胚の染色体に異常がなかったら」を前提にしてきたのですが、実際はそうではありませんよね。実際調べてみれば、20代の胚でも20%程度に染色体・遺伝子異常(ダウン症などに限らず、あらゆる異常と言う意味です)が、40代になれば2つに1つの胚は染色体・遺伝子異常でそもそもが胎児になれない胚だそうです。グレードというものは、胚の見た目でしか決められません。一応、グレードが悪い胚は、グレードが良い胚よりも、染色体・遺伝子異常の確率が高いということにはなっていますが、「ではこの胚に染色体・遺伝子異常はあるかないか」は、細胞の中の染色体を実際に見て検査してみないことには誰にも分かりません。現在は、その検査なしに、そもそも胎児になるのか不明な胚をとりあえず良さそうなものから移植しているだけです。

日本以外の国では、すでにPGT-A(着床前染色体異数検査)が当たり前になってきています。すべての染色体・遺伝子異常を調べるのは種類がありすぎて現実的ではありませんが、とりあえず、大きな異常だけは移植前の胚の段階で検査をし、検査にパスしたものだけを移植するという方法です。ここでいう大きな異常とは、「普通46本あるはずの、染色体の総数が46本じゃない」という異常です。数を数えるだけなので、なんの染色体が多いか少ないかは分かりませんし、染色体の中身の異常である遺伝子異常については分かりませんが、少なくとも、妊娠初期に流産してしまうような染色体異常がないものだけを選別できるため、着床率の上昇・流産率の低下に効果があります。海外では胚1個あたり1-5万円くらいが相場であり、胚移植1回よりも安く設定されているようです。染色体異常は、着床しない原因・初期に流産する原因として明らかであり、しかもメインのものであることはみんなが良く分かっている事実です。なのに日本では倫理感の問題からいまだに広がっていませんでした。しかしようやく近年学会が普及に向けて活動を始めています。おそらくもうそろそろ、認定された病院ではPGT-Aが一般的に行えるようになるはずです。そうなれば、せっかく着床しても初期流産を繰り返す・・・というな悲しい症例は減らせるはずです。悲しいだけでなく、初期流産は2-3周期分の時間がかかるので、その間に年齢を重ね、妊娠率は刻一刻と下がってしまいます。絶対防ぎたいものですが、今までは祈るしかなかったのです。

PGT-Aが広がれば、今まで着床率を上げるとされてきた、上に挙げた方法たちをもう一度見直す必要がでてきますので、何年後かにはこのページもがらりと変えないといけないかもしれませんね。