時間はお金で買えない。よく言われることですが、実感することは日常生活ではあまりないかもしれません。けれど、年齢と不妊治療には切っても切れない縁があります。今回は、年齢と不妊治療のお話。

「マル高」じゃないから安心?!不妊症が増えるのは何歳から?

30歳からです。女性は、年齢による妊娠率が年々下がってしまうのは今やよく知られた事実です。不妊カップルは6組に1組、つまり15%程度と言われていますが、年齢別ではどうでしょうか。女性の年齢が、25台だと8.9%しか不妊症でないのに対し、30台前半では14.6%、30台後半になると21.9%に上がります。40台になると28.9%と3組に1組は不妊症です。昔は、35歳以上の出産を「マル高」なんて呼んでいました。母子手帳に「高齢出産」の意味で丸で囲った「高」という字のスタンプが押されたからです・・・。なのでなんとなく「35歳をタイムリミット」と思っている方は多いですが、実は、30歳から不妊症の確率は平均以上となり、つまり自然に妊娠する確率が減っていることがわかります。

日本生殖医学会より
不妊治療は何歳から始めるべき?

不妊症となれば、年齢に関わらずすぐ始めるべきです。不妊症とは、「妊娠を望むカップルが、避妊せずに性交渉をしているのに1年間妊娠しないこと」です。「なかなか妊娠しないけどまだ30歳だし・・・」と様子をみている方も多くいます。「マル高」の呪縛は根強いようでして、なんとなく「35歳」をタイムリミットに受診してくる方が一番多い印象です。しかし、35歳前後からは、妊娠率の低下に加えて、流産率の増加が起こってしまいます。それは、たとえ体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を行っても、そのあとに待ち構える流産によって、結局、赤ちゃんが遠ざかってしまうということです。とにかく、「1年間自己流にトライしてだめならすぐ受診!」それが一番の近道です。若ければ若いほど、不妊治療の成功率も高いです。もちろん、不妊治療してまで子供はいらないという考え方もあるでしょう。それならそれでかまいません。けれど、「ぎりぎりまで自然妊娠を頑張って、どうしてもだめな時に不妊治療しよう」と思っているなら、そのタイムリミットはあなたが何歳でも「1年間妊娠しなかったとき」です。「まだ若いから大丈夫」では決してないのです。

下のグラフをご覧ください。これは日本での体外受精・顕微授精による胚移植の成績が年齢によってどう変わるかを示したグラフです。青いグラフは、「1回の胚移植あたり着床する確率」を表しています。どれだけ若くても、1回の胚移植では基本的に40%前後しか着床しないというのは、わりと衝撃でした。もっと多いんじゃないのって思っていましたので。でもたしかに不妊治療を長く診察するようになると、実感としても、そんなものです。その率も、35歳くらいからぐぐっと下がっていきます。40歳になると、4回に1回しか着床すらしないんですね。

注目すべきは紫のグラフ。35歳くらいまでは10%くらいの流産率だったのが、急に上がり始め、40歳になると倍の20%になります。これは加齢に伴い染色体異常の確率が上がるのが原因です。せっかく胚移植するのだから、遺伝子異常や染色体異常のない胚を選んでから移植すればいいのに、と思います。それが、着床前診断(PGT : Preimplantation genetic testing)です。日本では2019年8月現在、学会が認めていませんが、世界中の国々ではもうすでに広く行われています。だいたい胚1個あたり数万円が相場で、胚移植1回よりも安く設定されていることが多いですね。日本にも浸透すれば、胚移植1回あたりの妊娠率はもう少し上昇するかもしれませんね。現在は、妊娠してから行う出生前診断しか国内では基本的にできないのが現状です。

日本生殖医学会より
年齢によって不妊治療のお金は変わるの?

大きく変わります。不妊治療というのは、単純明快で、基本的に長くやればやるだけお金がかかります。妊娠率が高ければそれだけ治療が早く終わりますから、その分お金もかからずに済みます。

では、どれくらいのお金を見積もっておけば安心でしょうか?体外受精・顕微授精をして、1人の赤ちゃんを産むためにかかる費用を、年齢別にまとめたグラフがあります。35歳まではだいたい平均200万円くらい、体外受精・顕微授精を初めてから1年間くらいはかかるのが普通です。ホ●ダのグレイスとか外車でもミニならフィ●ット500なら新車で変える値段ですね。35歳を過ぎると妊娠率が低下するせいで、治療も長引いていき、当然、費用もかさみ始めます。40歳になると370万円、結果が出るのに2-3年間くらいかかります。メルセデスベ●ツのAクラスか、フォルクスワー●ンのゴルフくらいが買える予算がまず必要です。そこからは1歳年を取るごとにぐんぐん費用は鰻のぼり、42歳で1000万円、45歳では3780万円という「家が建つ」値段になってしまいます。しかも、43歳からは助成金が出ませんので、すべて完全に自腹で行うことになります。

国立成育医療研究センター不妊診療科医長・齊藤英和先生ご発表から