軽いものを含めれば、20歳以上の女性の10人に1人は子宮内膜症にかかっているのだそうです。その率は、年齢とともに上がり、30台前半でピークに。そう、ちょうど妊娠したくなる年齢とばっちりかぶるのですね。「チョコレート嚢腫があるといわれた」、「子宮内膜症があるといわれた」、「「でも妊娠したい!」」。不妊治療が先?それとも子宮内膜症を治さないと妊娠できないの?子宮内膜症持ちの不妊治療、一体何が正解なのでしょう?
- 子宮内膜症って?
- チョコレート嚢腫って?
- 子宮内膜症の何が悪いの?
- 子宮内膜症はどうして不妊症の原因になるの?
- 子宮内膜症は癌化するって本当?
- 子宮内膜症持ちだけど妊娠したい場合は?
- 手術をしない方がいい場合って?
- 手術を先にした方がいい場合って?
- (大事!)子宮内膜症持ちだけど妊娠したい時、行くべき病院は?
- イソフラボンって子宮内膜症に良くないの?
子宮内膜症って?
「本来女性の子宮の中にしかないはずの子宮内膜細胞(しきゅうないまくさいぼう)が、なんらかの理由で子宮の外の腹膜や卵巣に運ばれてそこで定着してしまった病気」です。子宮内膜細胞が本来ないはずの場所にある、というだけであって、別になにか新しい腫瘍の細胞が生まれているわけではないので、悪性腫瘍である癌とか良性腫瘍である卵巣嚢腫とかとは根本的に違います。でもごくごくまれに癌化することがありますので、それはあとで出てくる「子宮内膜症が癌化するって本当?」をご覧ください。
チョコレート嚢腫って?
子宮内膜症の一形態で、「子宮内膜症が卵巣にできて、古い子宮内膜細胞と血液が卵巣にたまって袋を作っている病気」です。
生理のときって、血が出ますよね?当たり前か。こちとら女何年やってると思ってんだって話でしたね。でもナプキンにつくその血って、普通にケガしたときの血とはなにか違いますよね?黒っぽいしドロドロしてるし臭いも独特・・・。これはただの血液よりも剥がれ落ちた子宮内膜細胞がメインで含まれているからなんですね。このように、子宮の中にある子宮内膜細胞なら、剥がれても毎月の月経で膣へと流れ落ちて出ていくことができます。でも、卵巣にあったら?卵巣の中で毎月毎月「月経」が起きて、血液と子宮内膜細胞の混じった「経血」が生まれます。外に流れていけないので、毎月毎月その経血は卵巣のなかに貯まっていき、古くなった血液成分がだんだん茶色いドロドロした液体になっていきます。まるでホットチョコレートみたいな色!なので、卵巣にできた子宮内膜症をチョコレート嚢腫と呼ぶのですね。
子宮内膜症の何が悪いの?
毎月毎月月経がくるたびに、体中の子宮内膜症の子宮内膜細胞は、子宮の中にいたときのように剥がれます。そう、子宮内膜症のあるところで「プチ月経」が起きて出血するのですね。血液は、かさぶたを作って糊のようにケガを治す働きがあります。子宮内膜症のプチ月経の部分でも同じことが起きてしまい、くっつかなくていいところが全部くっついてしまいます。子宮の周りにある臓器、つまり、卵管・卵巣・腹膜・腸・膀胱などが全部くっついていってしまうわけです。これを、癒着(ゆちゃく)と言います。
本当はバラバラに動くべきものが、全部くっついてしまうわけですから、生理で子宮がぎゅーっと収縮すると腸や卵巣まで引っ張られて痛み(月経痛、月経困難症)がでたり、逆にお通じが腸を通るときに子宮まで引っ張られて痛み(排便痛)がでたり、性交渉で膣から子宮が揺らされると卵巣や腸が引っ張られて痛み(性交痛)が出たりします。とにかく、痛いというのが主な症状です。
子宮内膜症はどうして不妊症の原因になるの?
癒着のせいで、卵管閉塞が起こるからです。卵管の周りに癒着が起きると、卵巣から排卵して飛び出た卵子が、うまく卵管にたどり着けないことが起こります。こうなると残念ながら、自然妊娠はできません。卵管が使えないわけですから、人工授精でも妊娠はできなくなり、体外受精・顕微授精しか手はなくなってしまいます。卵管閉塞があるかどうかの検査は、卵管造影検査です。「痛い」と悪名高い卵管造影検査ですが、大事な検査です。詳しくは「痛いと噂の卵管造影検査ってどんなの?」を読んでみてくださいね。
また、子宮内膜症が不妊症の原因になるのは、癒着だけではありません。子宮内膜症によって出血したところは、つまりはケガと一緒ですから、ケガを治そうとして炎症細胞が活発に活動します。これが毎月毎月起こり、子宮内膜症がある限り治りませんから、卵巣はずーっと炎症を起こした慢性炎症の状態になり、だんだん卵巣機能が低下してしまいます。
さらに、子宮内膜症の慢性炎症は、着床率を下げるということも言われ始めています。必ず着床しなくなるわけではないですが。
とにかく、妊娠を望む私たちにとっては非常に厄介な病気であることは間違いありません。では、妊娠を望まない人にとって、とくに閉経後はどうでしょう?
子宮内膜症は癌化するって本当?
閉経前後にチョコレート嚢腫は20-25%の確率で癌化するといわれています。4人から5人に1人って、結構高い!!うーん、心配になってしまいます。じゃあ、残りの75-80%はどうなるかというと、女性ホルモンが下がって月経が起こらなくなるせいで、子宮内膜症・チョコレート嚢腫は明らかに良くなり、小さくなっていきます。まさに天国と地獄・・・。
「私はどっちかしら?!」、気になるところですが、どんなタイプのチョコレート嚢腫が癌化しやすいか、はっきりわかってはいません。とりあえず、「大きい嚢腫の方が癌化しやすい」ようで6cm以上の50歳前後のご年齢の方は、今は良性でも手術をしてしまったほうがいいというのが大多数の意見です。とりあえず、40台前半くらいまではほとんど癌化しません。もちろん、5cm以下の大きさだったり、もっとお若かったりしても、状況次第では手術を優先した方がいい場合もありますから、一概には言えません。主治医とよーく相談が必要ですね。
子宮内膜症持ちだけど妊娠したい場合は?
そう!今日の本題はこれ!とりあえず、40台前半くらいまではほとんど癌化しないということで、不妊治療を優先してよいということになります。
子宮内膜症という病気を「治す」ことを優先したら、一番の治療は「手術(それも再発予防には卵巣ごと切除)+再発予防にピルかディナゲスト」です。これはもう間違いない。手術だけ、特にチョコレート嚢腫の部分だけを切除して卵巣の正常部分は残した場合(卵巣嚢腫摘出術)の再発率は、たったの3年で30%くらい。ものすごい高い再発率です!手術で取ったらオシマイ、とはならないのが嫌な病気です。再発予防には、月経や排卵を起こさないくらい、女性ホルモンを下げてやればいいこともわかっています。これが、低用量ピルやディナゲストと呼ばれる飲み薬です。手術をしなくても、チョコレート嚢腫を縮めてしまうほどよく効きます。あまりひどくない子宮内膜症の場合は、飲み薬だけで治療もできます。
でもこの治療、私たちには使えませんよね?だって、低用量ピルやディナゲストって排卵が止まっちゃうんです!妊娠したいから子宮内膜症を治したいのに、それじゃ意味ないじゃない!!
じゃあ再発は嫌だけどしかたないから手術だけにしておくかというと、それもちょっと待った!実は、いくら丁寧に手術をしてチョコレート嚢腫の部分だけを切除しても、必ず正常な卵巣もちょっとは傷つけてしまいます。つまり、卵巣嚢腫の手術後には、必ず卵巣機能は落ちるのです。
八方ふさがり、どうしたらいいのでしょう。
手術をしない方がいい場合って?
手術をまずは後回しにしたほうがいい場合はどんなときでしょう?
①子宮内膜症がわりと軽くて卵管閉鎖がない→タイミングか人工授精!
卵管が詰まっていないなら、もしかしたらタイミングか人工授精がいけるかもしれません。先にそちらを試してみましょう。
②チョコレート嚢腫はわりと小さめで、体外受精・顕微授精に進んだ→先に採卵!移植前に手術!
「わりと小さめ」ってぼやかしましたが、大きさの目安は、統一見解がなくとっても難しくって。3cm以下という人もいたり、6cm以下という人もいたり・・・。チョコレート嚢腫が大きくなければ、そこまで卵巣機能は落ちていないかもしれません。でも手術をしたら、確実に卵巣機能は落ちます!それよりは先に採卵をして、胚を貯めておきましょう。でもそのままだと着床率を落とすといわれるので、せっかく貯めた大事な大事な胚(お金もかかってる)、万全の子宮に戻してあげるために、移植前には手術が必要になるかも。
手術を先にした方がいい場合って?
不妊治療よりも先に手術をしておいたほうがいい場合もあります。
①卵管閉鎖していて、絶対体外受精はやりたくない→手術で卵管形成と癒着剥離にトライ!
卵管閉鎖している場合、残念ながらこのままだとタイミング・人工授精とも厳しいとなります。けれど、卵管を再通過させる卵管形成術という手術や、癒着している場所をはがす癒着剥離術という手術があります。卵管形成術の卵管再通過率は80-90%。けれど、子宮内膜症は再発が多いので、すぐまた元通りということも十分ありえます。
子宮内膜症持ちだけど妊娠したい時、行くべき病院は?
「腹腔鏡手術をやっていて、しかも体外受精・顕微授精までの不妊治療もやっている産婦人科」を必ず選んでください!!それがなければ、まずは不妊治療のクリニックです。妊娠したい子宮内膜症持ちの私たち(そうそう、私もでーす)がやめておいた方がいいのは、不妊治療をやっていない産婦人科です。どうしてかというと、とにかく、子宮内膜症の治療はオプションがいっぱい。病気のことだけ考えたら、手術をしてしまって、とにかくいったん子宮内膜症をなくしてしまうのが当然ベストです。けれど、それでは大事な大事な卵巣機能が下がってしまいます。不妊治療に詳しくない産婦人科医は、やっぱり「手術したからにはキッチリ治す。再発させない」を目指しますから、子宮内膜症もろとも正常卵巣を根こそぎ取ったり、手術をすぐ勧めたり(悪気はないです。病気には良いことですから当たり前です。)します。たまに、「チョコレート嚢腫で何年か前に片方の卵巣を取りました」という方が不妊外来に来ます。とっても悲しい。取ってしまった卵巣は、もしかしたら機能が落ちてしまってあんまり排卵してくれない卵巣だったのかもしれない。でも、絶対、無いよりはマシなんです。取っちゃったらもう二度と卵巣は生えません。その点、手術もやるし不妊治療も同じ病院でやっているというところの産婦人科医は、手術で卵巣がどうなるかもよく知っているし、再発よりもあえて卵巣機能温存を優先にした治療を考えます。それは、妊娠率を上げることが私たちの最優先だから。子宮内膜症自体、人それぞれだし、いろんな治療法があって、いろんなことをいろんな医者に言われて、あなたはとっても悩むかもしれない。それぞれの医者の立場からは全部正しいことだから、誰が名医とかそういうことではありません。あなたにとって、何が最優先か。それを常に考えて下さい。
イソフラボンって子宮内膜症に良くないの?
全然関係ありません。イソフラボンは植物性女性ホルモンなんて言われますが、もちろん人間の女性ホルモンそのものじゃないので、子宮内膜症を悪くも良くもしません。子宮筋腫にも関係ありません。たまに、「子宮内膜症が分かってから豆腐とか豆乳は控えているんです」とおっしゃる方がいますが、食べちゃって大丈夫ですからね!