初期流産の原因のほとんどは、胎児側にあります。とくに、初期流産のうち6-7割は染色体異常が占めると言われています。それ以外は、染色体異常がないにせよ細胞分裂のミスなどということになります。

せっかく大事に育てて採卵し、受精卵になってくれた胚たち・・・でも流産する運命ならば移植周期を無駄遣いしたくないのが本音です。わたしたちには1か月だって惜しいのだから!

そこで「移植前に染色体異常があるかどうかを調べられないか」と考えられたのが、着床前診断、いわゆるPGT-Aです。

PGT-Aってどういうもの?

胚盤胞に染色体異常がないかを調べる検査です。

 

卵子と精子が出会ってひとつの受精卵ができます。そのとき、細胞の数は1個です。が、5日程度たつとどんどん分裂して100個くらいの細胞からなる胚盤胞になります。ちょっと知識がある人なんかはブラスト、なんて呼ぶと知っているかもしれません。

 

さてこの胚盤胞、実は二つの細胞のかたまりからできています。

ひとつはもちろん赤ちゃん(胎児)になる予定の細胞の塊、内細胞塊(ないさいぼうかい、ICM)です。

もうひとつは、胎盤になる予定の細胞の塊、栄養外胚葉(えいようがいはいよう、TE)です。

胚盤胞はふたつの細胞塊からできている

細胞に染色体異常がないかどうか、どうやって調べるかご存知でしょうか。そう、「細胞をすりつぶして中身の染色体の検査をする」です。検査に使った細胞は、すりつぶされるので死んでしまいます。

ですから、すべての細胞を検査することはできません。検査したら細胞は死んでしまうからです。

ただ、100個くらいの細胞からできている胚盤胞の場合、1割くらい、つまり10個くらいの細胞をむしりとってきても不思議と胚盤胞自体は死なずに成長できることが分かっています。

だけど、さすがに将来赤ちゃんになるところの細胞をむしりとってくるのはなんとなく嫌な気持ちですよね。内側にありますから取りにくいですし。

思い出してください。胚盤胞は元をたどれば1つの受精卵でした。つまり、内細胞塊でも栄養外胚葉でも、同じ受精卵から分裂したわけで、同じ染色体をもつはずですよね。

ですから、PGT-Aでは将来胎盤になるところの細胞、栄養外胚葉から10個くらいの細胞をむしりとってきて検査をします。

PGT-Aの実際

PGT-Aって安全なの?

いいえ、100%安全ではありません。検査のせいで胚盤胞自体が変性して死んでしまうことがあります

 

「むしりとる」とか「ちぎる」だなんて野蛮な表現を使ったのには、わけがあります。

そう、実際に野蛮な手法であることは間違いがありませんよね。だって、一つの塊になっているところから一部をちぎってくるのですから。PGT-Aのせいで残った胎児側の細胞の染色体異常率が上がるとか、そういうことはありません。そのせいで生まれてきた赤ちゃんに障害が増えるとかもありません。

そうではなくて、PGT-Aでダメージがあると、胚盤胞自体が変性(死滅)する可能性がわずかにあるのです。

私たちの体で例えてみましょう。私たちは60兆個の細胞からできてますから、指の1本や2本なくなっても元気(?)で生きていますよね。けれど、体の1/10の細胞、例えば腕1本とかが急にもぎ取られたらどうでしょう。うーん、痛いけど・・・まぁ、なんとかたぶん生きていますよね。でも、運が悪ければ死にますね。

PGT-Aは胚盤胞にとってはそれくらいのダメージです。100個しかない細胞のうち10個を取られてしまうわけですから。特にもともと細胞数が少ないグレードの低い胚盤胞(良好胚以外の胚盤胞、Cがつくような胚)であれば、むしりとられる細胞が胚盤胞全体に占める割合が多くなるため、変性率は高くなります。

ただし、そうはいってもPGT-Aで胚盤胞自体が変性してしまう率は1/1000程度と言われており、決して高い確率ではありません。

 

PGT-Aで正常胚って何?

わたしたち人間は、23種類の染色体を2本ずつ、計46本持っています。PGT-Aで「正常胚」とは、23種類の染色体がきちんと2本ずつそろって46本あると予想されることをいいます。

 

PGT-Aって確定診断?

いいえ、確定診断ではありません。PGT-Aで異常胚でも胎児に染色体異常があるとは限りません。

「PGT-Aってどういうもの?」でお話ししたとおり、あくまで栄養外胚葉の染色体検査です。もちろん、最初はひとつの受精卵ですから、胎児になる細胞とも染色体は一致するはずですよね。

けれど現実にはそうはいきません。100個まで細胞分裂する過程で、染色体異常が出現し、そのまま分裂を続ける細胞たちもでてきてしまうことがあります。

そんな染色体異常のある細胞たちがたまたま、PGT-Aでむしりとられる10個に入った場合、検査結果は「異常胚」となります。胎児の細胞に異常がなければ、それは「やりすぎ」ですよね。

逆もまたしかり。たまたまPGT-Aでむしり取られる10個が異常なしなら、検査結果は「正常胚」となってしまいます。この場合、胎児の細胞に異常があれば「見逃し」ですね。

やりすぎも、見逃しも、どっちもありうる検査だということですね。

ただ、ここは自然の不思議なしくみで、そういう染色体異常の細胞たちは胎児ではなく胎盤側に集まりやすいことが知られています。つまり、栄養外胚葉です。PGT-Aで調べるのはその栄養外胚葉ですから、見逃しよりはやりすぎが増えやすいというのも特徴です。

 

PGT-Aで「正常胚」なら妊娠率は?

i100%には、なりません

着床や流産が受精卵の問題なら、正常胚を移植したら必ず着床し、妊娠できるはず・・・ならいいのですが、そうではありません。

着床し、妊娠できるかどうかは、染色体異常がないのは前提条件であり、結局は受精卵自体の細胞分裂の勢い、元気さ、質に左右されます。つまり、妊娠率はグレードが最優先され、PGT-Aで正常胚ならグレードなりの妊娠率に+αがあるというのが実情です。施設によって成績はさまざまですが、2-3割の妊娠率アップに効果がありという報告が多いですね。

 

PGT-Aってなんの役に立つの?

染色体異常に伴う妊娠率の上昇、流産率の低下です。

複数個ある受精卵のうち、PGT-Aの結果から赤ちゃんとして生まれてこれる可能性の低くいものを省くことで、妊娠までの移植回数を短縮できる可能性があります

PGT-Aをするべき人って?

胚盤胞移植を考えられる人なら全員に適応にしたっていい検査だとは思います。いろいろ綺麗事を言う人はいるけど、不妊症になったら分かりますよね。誰だって最短距離で妊娠まで到達したいに決まっています。

が、実際やってみるといろいろと問題点も分かってきました。思ってたより万能な検査ではなかったんです。「PGT-Aを受けてみたけど」でよくあるケースをお話しします。